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東京高等裁判所 昭和38年(う)2447号 判決 1964年5月19日

控訴人 被告人 古沢久美

弁護人 中村喜三郎

検察官 柳瀬乙三

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三年に処する。

原審未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する。

但し、本裁判確定の日から五年間、右懲役刑の執行を猶予する。

原審並に当審訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴趣意二について、

所論によると、原判決は被害者下畑重幸の死因となつた急性心機能停止につき、それが新倉隆雄による仲裁前の格斗の結果によるものか、その後の被告人の暴行によるものか明示しない違法があると主張する。よつて右所論に基づき原判決を仔細に検討してみると、原判決は新倉による仲裁の前後に亘る被告人の暴行を継続した一連の行為と認め、右一連の暴行の結果、本件死因となつた傷害を発生したものと認定したことが明認できる。而して右の如く継続して多数の暴行が加えられた場合、被害者の死の結果がそのいずれの暴行によつて発生したものであるかは、必ずしも判決にこれを明示することを要しないと解するから、原判決が本件死因となつた暴行を新倉による仲裁の前のものであるか、後のものであるかを明示しなかつたからといつて何等所論の如き違法は存しない。所論は、また、原判決は被害者下畑重幸が病院に運搬される途中の救急車中で死亡したと認定しているが、同人は既に、新倉による仲裁前の格斗の結果、死亡していた疑があるから、原審では須らく、この点につき、更に審理を尽くし、その死亡時期を明らかにすべきであつたのに、それをしなかつた違法があると主張する。よつて按ずるに、原判決挙示の証人宮沢三八郎の原審公判廷の供述、並に木野順三郎の検察官調書によると、被害者下畑は担架によつて救急車に運びこまれる時にはなお呼吸をしていたことが明らかであるから、その後救急車中で死亡したものと推定するのが相当であり、記録を精査しても右認定を左右するに足る証拠は存しない。それ故原判決の認定は正当であり、原判決には何等審理不尽の違法は認められない。論旨はいずれもその理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 渡辺好人 判事 目黒太郎 判事 深谷真也)

弁護人中村喜三郎の控訴趣意

二、原判決は審理不尽である。即ち死因は急性心機能停止というのであるが、この機能停止の潜在状態に被害者が常におかれていたことは、記録上明らかなところである。この機能停止が仲裁前の格斗によつて生じていたか二回目のドビンで殴つたときに生じたものかは原審では明確にしてない。

起訴状では豊洲病院で死亡したとあるけれども警察官の供述調書では救急車内で死亡したと報告をうけたので病院へ急行したとあるが、二回目に被害者が何等抵抗することなくじつとしていたところをみると一回目が終つて直後死亡していたこととなり、従つて二回目にけつた等ということや、又情状にも大いに影響するところであるからその死亡時期についての審理不尽はゆるされない。

(その余の控訴理由は省略する。)

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